大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和46年(う)78号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

〈前略〉

控訴趣意第一点(法令適用の誤りの主張)について

所論は、原判決は、罪となるべき事実として、被告人の無免許運転と酒酔い運転の各所為を認定したうえ、これらの罪は併合罪の関係にあるとして、刑法第四五条前段を適用処断したが、本件無免許運転と酒酔い運転は、同一人が同一の自動車を同一の日時場所において運転した機会に行われたものであるから、その基本的事実としては一個の運転行為があるだけであり、換言すれば、一個の運転行為により二個の法的評価としての結果を発生させたものとみるべきである。それゆえ、本件無免許運転と酒酔い運転の各罪は観念的競合の関係にあるというべきであつて、同法第五四条第一項前段により一罪として処断するのが当然であるのに、前記のように、原審がこれを併合罪として同法第四五条前段を適用したのは法令の適用を誤つたものであり、その結果処断刑が異なることになるから、右法令適用の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。

よつて考察するに、原判決の認定によれば、被告人の本件無免許運転の所為と酒酔い運転の所為とは、たまたま同一の自動車運転の機会に行われたものであつて、なるほど基本となる運転行為自体は一個であり、社会的、自然的にみれば一個の行為ということができるけれども、これに観念的競合の関係を認めるためにはそれだけでは十分ではなく、あわせて各行為の性格の異同も考慮されなければならない。

そこで、無免許運転と酒酔い運転との両者の行為の性格を比較検討すると、その間には基本的な性格の相違を認めざるをえない。すなわち、無免許運転は、法の定める手続によつて付与される運転免許をまつてはじめて運転が許されるにもかかわらず、この法の要求に反し無免許で運転したという、いわば運転に先行し、これを条件づける義務違反が当該運転そのものを全面的に違法ならしめるところに特色があり、違法性を決定する主たる要因は運転の先行条件の欠缺にあつて、現実的運転自体ではないが、一方、酒酔い運転は、現実の運転行為に際して酒に酔つて運転したという、現実の自動車運転行為自体において遵守すべき運転条件ないしは態度を履行しなかつたことが違法とされ、このような運転行為そのものが違法とされるものであり、違法性を決定する主たる要因も現実の運転行為自体にあるということができる。このように、無免許運転と酒酔い運転とは違法性付与の態様を異にし、法的性格もそれぞれ異なるのであるから、両者は元来互に関係のない別個の行為であるものが、本件ではたまたま同一の運転の機会に行われたにすぎないものというべきであるから、従つて、当然両者は併合罪の関係に立つと判断すべきものであつて、単に社会的にみて運転行為が一個であるからといつて、直ちにこれに観念的競合の関係があるというのは正当でない。

以上の理由により、無免許運転と酒酔い運転の間に観念的競合の関係を認めるべきであるとする弁護人の主張は相当でなく、原判決がこれを併合罪と判断したのは正当というべきであるから、結局原判決には所論のような法令適用の誤りは存在せず、論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する)

(鈴木重光 石崎四郎 四ツ谷巌)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例